大菩薩峠以来1ヶ月近く歩いていない。小さん十八番(おはこ)の”試し酒”ではないが、翌日の山行に備えて浦安海岸へ歩いた。ゆっくり往復2時間、トレーニングにふさわしい距離である。
夕方の海は黒みがかって騒がしい。無数の細かいうねりがあちこちに白波を立てている。
「ザワ、ザワ、ザワー。ザブーン、ドーン、ドブーン……」
波は堤防のトライポッドに休みなく、規則的に打ち寄せる。飛び魚? 何の魚だろうか、近くで遠くで飛び跳ねている。
沖合いではタンカーや貨物船が東京湾を東へ、何隻も続いている。
茜(あかね)の空を鳥の群れが西へ向かっている。夕日は浦安南高校の校舎に沈むところだった。

朝
1999年10月10日。
5時前はまだ夜だ。涼しい風が頬をなでる。何十個も星が瞬(またた)いている。通りは街灯でほどほどに明るい。東西線浦安駅まで徒歩45分。歩くにつれてさわやかに朝が明ける。
ひとつ先の葛西駅で乗車した客が話し掛けてきた。小さなリュックに杖を手にしている。
「山ですか?」
ぼくの服装を見ながら微笑む。
「奥日光です」とぼく。思わず声がはずんでしまう。
「じゃ、戦場ヶ原でしょう。いま、最高だから」
「…………!」
彼は高尾山という。
「来年の春までは月2回高尾山ですよ。この夏は槍と穂高に登りました」。こともなげだ。
日本橋までほんの数駅だが、問わず語りに笑顔を絶やさず話してくれた。
「1909年生まれですから、80になります」
別れ際にそう言った。
10月10日(日) |
7:00 |
東武浅草駅(快速) ⇒ 東武日光駅(バス) ⇒ 菖蒲ヶ浜
⇒ 竜頭ノ滝 昼食 (12:30) |
13:00 |
竜頭ノ滝上 ⇒ 戦場ヶ原自然研究路 ⇒ 泉門池
⇒ 小田代橋 ⇒ 光徳牧場 ⇒ 光徳温泉日光アストリアホテル泊 |
10月11日(月) |
8:20 |
日光アストリアホテル ⇒ 山王見晴し ⇒ 涸沼
⇒ 切込湖 ⇒ 刈込湖 11:15 (昼食) |
12:00 |
刈込湖 ⇒ 小峠(1,672m) ⇒ 湯元(バス) ⇒ 東武日光駅(快速)
⇒ 東武浅草駅 19:03 |
満員、渋滞
体育の日を挟んだ3連休の2日目である。予報も「秋晴れ」。7時東武浅草駅発の『日光行快速』は超満員だった。ぼくたち9人とも30分前から並んだが、ずっと立ち席……。
9:12、東武日光駅着。
駅前から湯元温泉行きのバスも最高に混雑していた。臨時バスを何台も増発していて、かろうじて5台目に乗ることができた。

”いろは坂”もその先も激しい渋滞だった。普段なら30分そこそこの距離が、菖蒲ヶ浜で下車したときは11:30。2時間以上バスの中だった。
”苦あれば楽”の喩(たとえ)。バス停すぐそこの竜頭ノ滝からのどかなハイキングを楽しむことになる。
渋滞のおかげで少し予定を変更したが、二日間、戦場ヶ原から切込湖・刈込湖にかけて、紅葉の景色、値千両を満喫できた。

涸沼にて (1999.10.11) |
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